①個人用の貸借対照表作成時のポイント
個人で建設業許可を取得する場合に必要な財務諸表とは、直前一期分の貸借対照表と損益計算書の2つです。法人用の場合は、決算報告で用いた財務諸表をもとに新たに財務諸表を作成しますが、個人の場合は主に税務申告で使った青色申告書(収支内訳書)をもとに作成することになります。
個人用の貸借対照表を法人用の貸借対照表と比較した際に、大きな違いとして挙げられるのが「純資産の部」です。
株式会社の場合、株主はオーナーである反面、出資額の範囲でしか責任を取らないという株主有限責任の原則があるため、債権者の立場は相対的に不利なものとなってしまいます。
これに対する対策として、株式会社の 「純資産の部」の中では複雑な 「債権者保護システム 」 が計上する数字の計算過程に組み込まれています 。
他方、個人事業者の場合、原則としてオーナーが責任負うことになるため、「純資産の部」は非常にシンプルなつくりになっています。
すなわち 、期首の資本 ((「期首資本金」、青色決算申告書の場合は「元入金」がいくらあって、今期 いくらの利益を稼いで「事業主利益」)、今現在(期末)の資本はいくらになっているのか(「純資産合計」)を表示するという基本構造になっています。
注意すべきポイントですが、 「事業主借勘定」と「事業主貸勘定」という項目があります。これらは「資本取引」を表す勘定項目です。
「純資産の部」を変動させる要因には大きく分けて①損益取引と②資本取引があります。損益取引とは読んで字の如く企業の本来の営業活動によって生じるものです。
他方、資本取引とは出 資者 ( オーナー)と事業体 (お店)との取引のことです (個人事業の場合、オーナーも経営者も事業体も実質は一体)。資本取引のイメージとしては、オーナーがお店からお金を取る、又はお店にお金を入れるといったような行為による金額の変動です。
「事業主貸勘定」 とは、事業主 ( オーナー・経営者) にお店のお金を貸した、つまりオーナーがお店からお金を取った(お店にと っては マイナス)ことを意味し ます。逆に 「事業主借勘定」とは事業主 ( オーナー・経営者)からお店がお金を借りた(お店にとってはプラス)を意味し ます。
注意が必要なのは、「貸した」・「借りた」といっ ても、そもそもお店はオーナーの所有であるため返済義務があるといったような負債性のある項目ではありません。ポイントはお店にとっては純資産が+か△( マイナス) かどうかという点です。
②個人用の損益計算書の作成ポイント
個人用の損益計算書の構造は 、法人用のものとほとんど同じです。勘定科目についても、「事業主利益 (又は事業主損失)」 以外の勘定科目は法人のものと同様です。「事業主利益(又は事業主損失) 」とは当期純利益のことで、損益計算書上部に記載されている「自平成○年○月○日 至平成○年○月○日」という期間で稼ぎ出した事業の最終利益です。
したがって、この 「事業主利益」は、貸借対照表上の「純資産の部」 に計上されることになります (貸借対照表の事業主利益)と損益計算書上の「事業主利益」は一致する)。個人事業の場合、オーナーは経営者でもあり、そして事業と一心同体です。
そのオーナー(経営者)の持ち分を表すのは「純資産の部」です。稼いだ利益が「純資産の部」に計上されるのは、すなわち事業によってオーナーの(あるいは事業体の)正味の財産が増加したことを意味します。